最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)948号 判決 1969年12月16日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人寺浦英太郎の上告理由第一および第二について。
原審の確定した事実関係、とくに、被上告人は、当初は、本件土地上にあつた木造瓦葺平家建の旧建物を取りこわしたうえ、その土地に鉄骨造りの新建物を建築しようと企図し、その工事に着手していたが、上告人においてそのような建物の建築を承諾しないことが明らかになつたため、鉄骨造りの新物の建築を取りやめ、基幹構造用材としては大半取りこわされた旧建物の建築材料をそのまま使用して本件新建物を建築したものであり、かつ、右新建物はその規模、構造、耐用年数等において旧建物のそれを上廻るものではなかつた、という事実関係は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけではない。そして、右事実関係のもとにおいて、被上告人が本件土地上の建物についてした一連の行為はその土地の賃貸人たる上告人に対して実質的な損失、不利益を与えるものではなかつたから、被上告人の右行為には本件賃貸借契約を解除しなければならないほどの背信性がなく、したがつて、所論の無断増改築禁止の特約違反を理由とする上告人の右賃貸借契約解除の意思表示はその効力を生じない、とした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)